【法務(ー1日目)】クリスマスだって勉強するでしょ(採用面接を振り返る)(2/3)。

 

クリスマスの日の夜

零は、机に座って契約書審査に向けた学習を開始していた。零が任されたのは、法務室の立ち上げだった。面接の当日、面接官に対して「貴社として私が重点的に関与して欲しいタスクはどこでしょうか。貴社はどのような法的リスクを最も心配されているのでしょうか」と聞いたところ、面接官は「正直なところ、法的リスクといったものが実際、どういったところに潜んでいるのか自体、正確には反映しておりません。零さんが主体となって、法的なリスクの洗い出しだけではなく、契約書の審査やコンプライアンス教育の全般をになっていただきたいと考えております」と零に伝えた。

 

 

零は前職でも法務室の立ち上げを行なっており、そのことは、零の強みだ。

立ち上げた法務室のレベルまでは分からないのであるが、役員や事業部と連携して、契約書を作成、締結するフローを作ろうとした過去はある。その後、前職では、法務室に4名が入社したのだが、その4名からは、特段、大きな欠落点を指摘されてはいない。良くも悪くも、法務室を”立ち上げた”実績はあるということだろうか。

 

 

今回の面接官の発言に対しても、

法務経験豊かな志願者であれば、かなり不安になったであろう。ただ、この会社のコンテンツは、零にとってまず魅力的であった。また、零のキャリアとしても、BtoCビジネスに関われることや、インターネットビジネスに関われることから、将来有効に活用するのではないかと考えていた。零は、「顧問弁護士はいるのでしょうか。私も未経験な分野もありますので、その際は、ある程度の予算をもって、外部の弁護士費用に当てていただければ幸いです」と伝えた。面接官は「それは当然のことです。私も、昨今のコンプライアンス法令遵守だけでなくて、レピュテーションリスクも会社が抱える重要なリスクだと思っているので、是非、主導的な役割を果たして欲しいと考えています。」と言ってくれた。

 

 

こんな面接でのやりとりであったため、零は事前準備をしようにもどこから対応をするべきか悩んでいた。悩んでいてもしょうがないので、零は、契約書審査の初歩として、改めて、秘密保持契約を見直すことにした。ゼロから法務業務を見直そうとする自分の思考にも合うように思っていた。

 

 

 

【法務(ー1日目)】クリスマスだって勉強するでしょ(クリスマスケーキ)(1/3)。

 

 

入社日前日の日曜日。

クリスマス。twitterのタイムラインを見ていても、クリスマスのために用意したケーキや、七面鳥の写真が相次いで流れている。

 

 

零はといえば、妻がセブンイレブンでケーキを買っていた。

 

 

この数年、零は、有名なケーキ屋でケーキを購入していて、

正直なところ、ケーキを食べることに対して、関心が薄れていた。そこで、妻が”コンビニでケーキを買った”ということについて、何の抵抗感もなく、むしろ、”たまにはコンビニでケーキを買うということでもいいだろう”と思っていた。零は、派手なものであることを望まないタイプだ。牧歌的に慎ましやかなクリスマスを楽しみにした。

 

 

妻曰く「セブンイレブンで、ケーキとチキンを買っておいたから。あと、海鮮丼も準備したし、サラダも具材を買っておいたから」とのことであった。何か豪華なものでクリスマスを飾るというのではなく、コンビニで済ますことで、かえって、牧歌的なクリスマスの温もりを感じた。予め準の備をしてくれていた妻に対して感謝をしつつ、クリスマスディナーを楽しみにした。

 

 

零の娘はピアノ教室に通っている。

ピアノ教室の送り迎えは、零の仕事。いつものように迎えに行ったのではあるが、帰り道は何か少しだけ違う。B'zの「いつかのメリークリスマス」を口ずさみながら、娘を自転車のチャイルドシートに乗せて、少し重くなった自転車を漕ぐ。

 

 

娘「ママ〜帰ったよ〜」

 

 

ケーキが大好きな娘は、”早くケーキを食べたい”とでも言うかのように、妻に対して、ピアノ教室から帰ってきたことを報告した。妻は「美味しいわよ。だって、4,000円もしたんだから」といった。

 

 

お…。

 

 

牧歌的に慎ましやかなクリスマスをイメージしていたため、零は、有名店と変わらないケーキの値段に一瞬、驚いた。調べてみると、名店ザ・リッツカールトンで働いていたパティシエの作品だった。コンビニの進化は、零も理解していたところで、コンビニが提携していることは当然知っていたが、しっかりとしたお値段に”そ、そ、そういうことか”となった。

ブランドケーキ|セブン‐イレブン~近くて便利~

 

 

ディナーが始まると、娘は妻が買ってきたピザを「美味しい。美味しい」と言って、30cmサイズあるものを、1枚妻が食べたのを除いて、たいらげた。零や零の妻が食べようとすると「だめ!」と言って静止して平げた。残ったのはピザの耳の分だけだった。娘が楽しんでくれたのであれば、それでいいということになるのだろう。

pizza

 

その日の夜、零の母からもクリスマスプレゼントが届いた。

妻や娘に対しては、比較的お値段がはるものが届いたのだが、零に届いたのは、靴下やマフラー、ヒートテックのシャツだった。物欲のない零を知ってのことなのだろうが、娘や妻に渡されたものと比較すると、少し差別されたように感じた。

ただ、零は、この歳になっても、母にとって自分は子供であり、風邪引かないことだけを心配してくれているのかと思って、母のありがたみを感じた。入社直前のクリスマスであり、本当は準備に時間をかけたい零ではあったが、家族や母のありがたみを感じつつ、「こう時間もいいな」と思っていた

 

 

 

 

- あるひとり法務の物語 -

 

 

朝方の午前6時。

 

 

まだ意識も朦朧としている中、

零は、布団にくるまりながらYoutubeアプリを開いた。こんな時間だ。隣で寝る妻や子供が起きてしまう。零は、イアホンで音が漏れないようにしながら、動画を聞いた。

 

youtu.be

 

別に、何かこう、やれと言われてやっているわけではみんなないですよね。

会社の成り立ちからずっと、天才がこんな面白いことや大きいことをやろうぜと言って集まって、で、その人たちがやりたいことをずっとやっている。そんな感じなんですよね。Googleは、天才を雇っていて、そういう人たちは、「ここ行こうよ。」みたいな高い目標を掲げておけば、勝手に頑張る。

Googleは、天才集団。天才を集めたアスリート集団、スポーツチームに近いという風に思っていて、サッカーのチームでも、フィールドに出れば「さん付け」もいらないとか、バチバチに言い合うけど、フィールドの外に出たら仲良しみたいのあるじゃないですか。イメージはそれに近い。でも、それはチームを勝たせるためとか、優勝させるとか、大きい目標があるから、みんな一丸になろうねというのがある。

 

 

零は今年メーカーである前職を退職し、

外資スマートフォンアプリ会社の法務部に転職することにした。転職理由は、その会社のプロダクトに魅力を感じたことと、ベンチャー企業であるその会社で自分の力を試してみたいと思ったことにある。その挑戦といえば、ひとり法務であることも加わる。

 

 

もう来週から、最初の営業日だ。

そんな状況下にあった零にとって、この動画は「他の人は頑張っているぞ。お前は何をやっているんだ。それで通じると思っているのか」と語りかけるようなものであった。

 

 

零は布団にいられなくなった。

勢いよく布団から起きたの零に気づいた妻が「どうしたの。」と聞いてきたが、零は「いや、別に。」とだけ言って、寝室を出た。

 

 

 

秋の明け方である。

朝日が登ったばかりの自宅周辺は、鳥が囀り、朝日が紅葉を照らしていた。

 

 

零は広い世界の片隅でひとり法務の物語を始めようとした。