- あるひとり法務の物語 -
朝方の午前6時。
まだ意識も朦朧としている中、
零は、布団にくるまりながらYoutubeアプリを開いた。こんな時間だ。隣で寝る妻や子供が起きてしまう。零は、イアホンで音が漏れないようにしながら、動画を聞いた。
別に、何かこう、やれと言われてやっているわけではみんなないですよね。
会社の成り立ちからずっと、天才がこんな面白いことや大きいことをやろうぜと言って集まって、で、その人たちがやりたいことをずっとやっている。そんな感じなんですよね。Googleは、天才を雇っていて、そういう人たちは、「ここ行こうよ。」みたいな高い目標を掲げておけば、勝手に頑張る。
Googleは、天才集団。天才を集めたアスリート集団、スポーツチームに近いという風に思っていて、サッカーのチームでも、フィールドに出れば「さん付け」もいらないとか、バチバチに言い合うけど、フィールドの外に出たら仲良しみたいのあるじゃないですか。イメージはそれに近い。でも、それはチームを勝たせるためとか、優勝させるとか、大きい目標があるから、みんな一丸になろうねというのがある。
零は今年メーカーである前職を退職し、
外資系スマートフォンアプリ会社の法務部に転職することにした。転職理由は、その会社のプロダクトに魅力を感じたことと、ベンチャー企業であるその会社で自分の力を試してみたいと思ったことにある。その挑戦といえば、ひとり法務であることも加わる。
もう来週から、最初の営業日だ。
そんな状況下にあった零にとって、この動画は「他の人は頑張っているぞ。お前は何をやっているんだ。それで通じると思っているのか」と語りかけるようなものであった。
零は布団にいられなくなった。
勢いよく布団から起きたの零に気づいた妻が「どうしたの。」と聞いてきたが、零は「いや、別に。」とだけ言って、寝室を出た。
秋の明け方である。
朝日が登ったばかりの自宅周辺は、鳥が囀り、朝日が紅葉を照らしていた。
零は広い世界の片隅でひとり法務の物語を始めようとした。