【法務(0日目)】デジタル社会の初歩の初歩(朝会)

 

 

神永零30歳。

零は、メーカーである前職を退職し、今年から外資系のスマートフォンアプリの会社で勤務を開始した法務社員である。零のタスクは、ベンチャー企業であるこの会社で、契約審査も行いながら、会社のガバナンス体制を構築することである。いわゆるひとり法務だ。

 

 

今日は零の初めての出社日。

 

 

零の努める会社は午前10時が始業開始時間である。

零は、遅刻だけは避けなくてはならないと、朝6時には起きて会社に向かった。オンラインで採用面談をしたので、実際に会社をみるのは初めてだ。慣れない街だったので、早めに家を出て、周囲を散歩することにしていた。

 

 

準備ができている時ほど何も起きないもので、

駅から降りてすぐにオフィスを見つけることができた。時計はまだ8時半を指している。零は、オフィスの周囲を歩いて、慣れない街を散策し、スマートフォンアプリを開いて公園を探した。12月も終えようとするこの季節、息は白い。零は、公園に向かう途中で、缶コーヒを買って10時を待った。

 

 

9時30分になった。

散々、twitterをみて、音楽を聴きながら、零は周囲を歩きつづけていた。冬場であるはずなのに、コートを着た零は、少し汗ばんでいた。

 

 

事務所への階段を登ると、そこには訪問者用のiPadがあった。

 

 

スマートフォンアプリの会社に勤めながら、じつのところ、零はアプリ音痴だ。自分の属性を選択する画面で「お客様」「宅配業者様」などの選択画面を見つけては、社員であるはずの自分はどちらを押せばいいのだろうかとつまらないことにも悩んだりした。入力をし終えたつもりになったのだが、本当に入力を終えたのかも分からない。

入力を終えたつもりになってから2分。もしかすると、入力できていないかもしれないとiPadを触り始めた零の後ろから「神永さんですか?」と声をかけられた。零は、「は、はい」と、少し慌てながら答えた。振り向くと、そこには、外資ベンチャーを絵に描いたような美しい女性が立っていた。「こちらへどうぞ」。零は、そう言われてオフィスに入った。零は、選んだ会社が正しかったと、少しだけ喜んだ。

 

 

「こちらが神永さんの机です」

 

 

人事の方から指を指されて、自分の机を知った。9時35分にもなり、就業時間まで20分を切っているのに、オフィスには3人程度しかいない。リモートワーク下で、わざわざ、僕のために人事の方は出社したのだろうか。そんなことを思いながら、自分の居場所がなくて、スマートフォンをいじって、時間を潰した。

 

 

顔を上げると、知らないうちに、社員の方が20名ほど出社していて、3〜4名でまとまって何かを話していた。自分はまだお客様なのだろか。そんなことを思うほどに、出社した社員の方たちは、あるグループは楽しそうに、あるグループは真面目な顔で何かを話していた。零には、この会社の盛り上がりを感じていた。

 

 

零を迎えてくれた人事の方が「神永さん、朝会始まるんで、カレンダの朝会のURLにログインして待機してください。今日は一緒に出席しましょう」と言って、隣に座った。

 

 

零は少しだけ照れていた。